異なる価値観を持つチームメンバー間の相互理解を深めるインクルーシブなコミュニケーション実践
チームの多様化は、新しい視点や創造性をもたらす一方で、メンバー間の価値観の違いから生じるコミュニケーションの難しさや意見の対立といった課題を表面化させることもあります。特に、ビジネスの現場では、育ってきた環境、経験、職種、年齢、性別といった多様な背景を持つメンバーが集まります。それぞれのメンバーが持つ価値観の違いを乗り越え、互いを理解し、チームとして最大のパフォーマンスを発揮するためには、リーダーが意図的にインクルーシブなコミュニケーションを実践することが不可欠です。
本記事では、多様な価値観を持つチームメンバー間の相互理解を深めるための具体的なコミュニケーション技術と、リーダーが取るべきアプローチについて解説します。
チームにおける価値観の多様性を認識する
まず、チーム内に多様な価値観が存在することをリーダー自身が認識し、受け入れる姿勢が重要です。価値観の違いは、単なる「考え方の違い」だけでなく、仕事への取り組み方、意思決定のスピード、リスクへの考え方、フィードバックの受け止め方など、様々な行動や認識に影響を与えます。
リーダーは、これらの違いを「どちらかが正しい・間違っている」と判断するのではなく、チームを構成する多様な要素として肯定的に捉える必要があります。多様な価値観は、適切に活かせばチームの強みとなり、より多角的な視点での課題解決やイノベーションにつながります。
相互理解を深めるための具体的なコミュニケーション技術
異なる価値観を持つメンバー間の相互理解を促進するために、リーダーが実践できる具体的なコミュニケーション技術をいくつかご紹介します。
1. 丁寧な傾聴と共感
相手の話をただ聞くだけではなく、その背景にある考えや感情、大切にしている価値観を理解しようと努める姿勢が重要です。話を遮らず、最後まで注意深く耳を傾け、相手の言葉や非言語的なサインから真意を汲み取ります。必要に応じて、「つまり、〇〇ということですね?」と確認する復唱や要約も有効です。共感を示すことで、相手は安心して心を開きやすくなります。
2. オープンな問いかけと対話の促進
相手の価値観や考え方について理解を深めるためには、オープンな質問を投げかけることが効果的です。「なぜそう思うのですか?」といった詰問調ではなく、「具体的にどのような経験からそのように考えるようになったのですか?」「その点について、もう少し詳しく教えていただけますか?」といった、背景や根拠、具体的な状況を尋ねる質問を心がけます。これにより、表面的な意見の対立に留まらず、互いの内面や経験に基づいた価値観を共有する対話が生まれます。
3. 「I(私)メッセージ」の活用
異なる価値観を持つ相手に対して、自分の考えや感情を伝える際には、「あなたは〜すべきだ」「あなたの〜は問題だ」といった「You(あなた)メッセージ」ではなく、「私は〜と感じます」「私は〜という状況で困っています」といった「I(私)メッセージ」を使用します。これにより、相手を非難することなく、自分の状況や考えを率直に伝えることができ、感情的な対立を避けることにつながります。
4. 価値観の違いに基づく行動への建設的なフィードバック
価値観の違いが行動の衝突として現れた場合、行動そのものに焦点を当てて具体的にフィードバックを行います。「〇〇という状況で、あなたが取った△△という行動は、チームの××という目標に対して、▲▲という影響があると考えられます。この点について、あなたの考えを聞かせていただけますか?」のように、状況、行動、影響を客観的に伝え、相手の意見を聞く姿勢を示すことが重要です。価値観そのものを否定するのではなく、行動の選択肢や影響について対話することで、共通の理解点を見出すことを目指します。
共通基盤の構築と浸透
個々のメンバー間の相互理解を深める努力に加え、チーム全体の共通基盤を構築し浸透させることも、多様な価値観を持つチームをまとめる上で重要です。
1. チームの目的・目標・バリューの共有と浸透
チームが何を目指しているのか、どのような価値観を大切にするのかを明確にし、メンバー全員で共有します。共通の目的や目標は、個々の価値観の違いを超えてメンバーを結束させる強力なよりどころとなります。定期的にこれらの内容を振り返り、具体的な行動にどう結びつくのかを話し合う機会を持つことも有効です。
2. 互いの強みと貢献への理解
メンバーそれぞれが持つ異なる経験やスキル、価値観が、チームの目標達成にどのように貢献できるのかをリーダーが理解し、それをメンバーにも伝えます。互いの強みを認め、尊重する文化を醸成することで、価値観の違いが対立ではなく補完関係として機能するようになります。
実践のヒント:対話の機会を意図的に設ける
日常の業務の中だけでなく、意識的にメンバーがじっくりと話せる場を設けることも有効です。例えば、週に一度、業務とは直接関係のないテーマでフリートークをする時間を作る、ランチタイムを利用してカジュアルな情報交換を促す、1on1ミーティングでキャリアやプライベートも含めた個人的な価値観について話す時間を作る、などが考えられます。心理的安全性が確保された環境であれば、このような対話を通じて、メンバーは互いの人間的な側面や背景にある価値観について、より深く理解することができます。
まとめ
多様な価値観を持つチームメンバー間の相互理解は、一朝一夕に実現するものではありません。リーダーが率先して、丁寧な傾聴、オープンな問いかけ、「Iメッセージ」の活用といったコミュニケーション技術を実践し、チーム内の対話を促進することが不可欠です。また、共通の目的やバリューを明確にし、互いの強みを認め合う文化を醸成することも、相互理解の土台となります。これらの継続的な実践を通じて、異なる価値観がぶつかり合うのではなく、互いを豊かにし、チーム全体の力を最大限に引き出すインクルーシブな組織文化が育まれていくでしょう。