インクルーシブ組織実践NAVI

チームの「当たり前」を問い直し、インクルーシブな文化を育むリーダーの実践ステップ

Tags: インクルージョン, 無意識バイアス, チーム文化, リーダーシップ, チームマネジメント

チームの「当たり前」がインクルージョンを阻害する可能性

チーム内で長年培われてきた「当たり前」や「常識」は、円滑な業務遂行を助ける一方で、無意識のうちに特定のメンバーにとって働きづらい環境を作り出している可能性があります。例えば、「会議で積極的に発言するのが良い」「特定の時間まで残業するのが普通」「特定の方法で課題を解決する」といった暗黙のルールや期待は、異なるバックグラウンドや働き方を持つメンバーを疎外したり、多様な視点がチームに活かされにくくしたりする要因となり得ます。

インクルーシブなチームとは、多様なメンバー一人ひとりが尊重され、本来の力を発揮できる状態を指します。この状態を目指すためには、リーダーが自らのチームに存在する「当たり前」を意識的に問い直し、必要に応じて変革していく姿勢が不可欠です。

なぜ「当たり前」の問い直しが必要なのか

チームの「当たり前」は、往々にして過去の成功体験や特定のメンバーの価値観に基づいて形成されます。しかし、メンバー構成が多様化し、ビジネス環境が変化する中で、かつての「当たり前」が現在のチームや個人のポテンシャルを最大限に引き出す上で最適とは限りません。

「当たり前」に潜む無意識バイアスが放置されると、以下のような課題が生じる可能性があります。

このような状況を改善し、多様なメンバーが活躍できるインクルーシブな文化を育むためには、リーダーが主体となってチームの「当たり前」に光を当て、その有効性を問い直すプロセスが必要となるのです。

チームの「当たり前」を見つける実践ステップ

チームに存在する「当たり前」は、日常の中に深く根ざしているため、意識しないと気づきにくいものです。リーダーがこれを特定し、問い直すための実践ステップをご紹介します。

ステップ1:チームの日常を観察し、言語化する

まず、チームの日常的なやり取り、会議の進め方、意思決定プロセス、評価の傾向、非公式なコミュニケーションなどを注意深く観察します。「どのような時に、誰が、どのような発言をしやすいか・しにくいか?」「特定の状況で、どのような行動や判断が『良し』とされているか?」「どんな冗談や話題が飛び交うか?」といった点に意識を向けます。

単に観察するだけでなく、気づいたことをメモしたり、同僚や信頼できるメンバーと非公式に話し合ったりすることで、漠然とした「当たり前」を具体的な言葉にしていきます。例えば、「会議の冒頭で必ず雑談が入る」「特定のタスクはいつも同じ人が担当する」「目標達成のために長時間労働が暗に奨励されている雰囲気がある」などです。

ステップ2:「当たり前」に潜むバイアスや影響を分析する

言語化された「当たり前」が、どのような無意識バイアスを含んでいるか、そしてチームやメンバーにどのような影響を与えているかを分析します。この際、「なぜ、その『当たり前』が生まれたのか?」という背景も理解しようと努めます。

例えば、「会議の冒頭の雑談」が、特定の共通の趣味や出身校に関するものであれば、それに馴染みのないメンバーが疎外感を感じる可能性があります。「特定のタスクがいつも同じ人」であれば、他のメンバーがスキルを習得する機会を失っているか、そのタスクが特定属性(性別、年齢など)に偏っている可能性があります。「長時間労働の奨励」は、育児や介護、あるいは個人的な時間を大切にしたいメンバーにとって、評価や貢献への意欲を阻害する大きな要因となります。

この分析は、一人で行うだけでなく、信頼できる多様なメンバーや、可能であれば社内外のインクルージョンに関する専門家の視点を借りることも有効です。

ステップ3:安全な対話の場を設け、チームで共有・問いかける

特定された「当たり前」とその影響について、チームメンバーと安全に話し合える場を設けます。リーダーは、一方的に「これは問題だ」と指摘するのではなく、「私たちのチームには、こういう傾向があるように見えるけれど、皆さんはどう感じていますか?」「この『当たり前』は、チームの皆にとって働きやすさに繋がっているでしょうか?」「何か別のやり方や考え方はあるでしょうか?」といった問いかけを丁寧に行います。

メンバーが率直に意見や懸念を表明できるよう、心理的安全性を確保することが極めて重要です。否定的な意見や少数派の意見も歓迎し、傾聴する姿勢を示します。匿名でのアンケートや、少人数でのブレイクアウトセッションなども有効な手法となり得ます。

「当たり前」を変え、インクルーシブな文化を育む実践

チームで「当たり前」とその影響について共有し、対話が進んだら、次は具体的な行動へと繋げます。

新しい規範や行動様式をチームで合意形成する

話し合いの結果を踏まえ、「どのような状態を目指したいか」「そのためには、これまでの『当たり前』をどう見直し、新しい『当たり前』をどう作っていくか」をチームで共に考え、合意形成を図ります。例えば、「会議の最初の5分で、参加者全員が短い近況を共有する時間にする」「特定のタスクは担当をローテーションする仕組みを作る」「効率的な働き方を評価する基準を明確にする」といった具体的な行動目標を設定します。

リーダー自身の行動で模範を示す

リーダー自身が新しい規範を率先して実践することが、チームの変化を促す上で最も強力な推進力となります。例えば、自身が定時に退社する、会議で意識的に普段発言しないメンバーに問いかける、特定の属性に関する固定観念に基づいた発言をしない、といった行動を通じて、目指す文化を体現します。

多様な価値観を尊重するコミュニケーションを促す

チームメンバーがお互いの違いを理解し、尊重し合えるコミュニケーションを意識的に促します。相手のバックグラウンドや経験に関心を寄せ、共感的に耳を傾けることを推奨します。異なる意見が出た場合に、それを対立として捉えるのではなく、チームにとって有益な多様な視点として活かす方法を共に探ります。

定期的な振り返りと改善を継続する

チームの文化は一度作れば終わりではありません。設定した新しい規範が機能しているか、メンバーは働きやすさを感じているかなどを定期的に振り返り、必要に応じて見直しを行います。アンケートや1on1ミーティングなどを通じてメンバーの声を継続的に収集し、改善に繋げていくプロセスが重要です。

まとめ

チームの「当たり前」を問い直すことは、時に discomfort(居心地の悪さ)を伴うかもしれません。しかし、リーダーがこのプロセスに真摯に取り組み、チームと共に歩むことで、無意識バイアスが軽減され、多様なメンバーが心から貢献したいと思えるインクルーシブな文化が育まれます。それは、結果としてチームのパフォーマンス向上やエンゲージメント強化にも繋がる、持続的な成長の基盤となるのです。ぜひ、ご自身のチームの「当たり前」に目を向け、小さな一歩から始めてみてください。