チーム内のマイクロアグレッションに気づき、インクルーシブな関係性を築くリーダーの対応策
多様なチームで発生しがちなマイクロアグレッションとは
現代のビジネス環境では、多様なバックグラウンドを持つメンバーが共に働くことが当たり前になりつつあります。こうした多様性はチームに新たな視点や創造性をもたらす一方で、意図せず相手を傷つけたり、疎外感を与えたりする「マイクロアグレッション」が発生する可能性も高まります。
マイクロアグレッションとは、特定の属性(性別、人種、性的指向、年齢、障がい、出身地など)を持つ人々に対して、日常的なコミュニケーションの中で無意識のうちに行われる、軽蔑的、否定的なメッセージや行動のことです。これらは悪意に基づくものではないことが多いですが、受け手にとっては不快感や疎外感、自己肯定感の低下につながり、心理的安全性を損なう深刻な問題となり得ます。
営業部リーダーなど現場の管理職の皆様は、チーム内の雰囲気やメンバー間の関係性に日々気を配っておられることと思います。「あの発言、もしかしたら誰かを不快にさせたかもしれない」「どう声をかけたら適切だろうか」と悩むこともあるかもしれません。インクルーシブなチーム運営を目指す上で、マイクロアグレッションへの気づきと適切な対応は避けて通れない重要な課題です。
職場におけるマイクロアグレッションの具体例とその影響
マイクロアグレッションは、大げさな差別やハラスメントではなく、一見些細に思える形で現れることがあります。しかし、それが繰り返されることで、受け手は継続的なストレスを感じ、チームへの信頼感を失ってしまうことがあります。
職場で見られるマイクロアグレッションの例としては、以下のようなものが挙げられます。
- 決めつけやステレオタイプに基づく発言: 「女性だから細かな作業が得意だよね」「〇〇さんの部署出身だから、こういう考え方をすると思ったよ」など、個人の能力や考え方を属性で決めつける発言。
- 異文化や異なる背景への無理解に基づく言動: 特定の国の出身者に対して、その国のネガティブなイメージに基づく冗談を言ったり、珍しがるような態度をとったりすること。
- 存在の否定や不可視化: 会議で特定のメンバーの発言が繰り返し遮られたり、貢献が見過ごされたりすること。多数派の話題ばかりで盛り上がり、少数派のメンバーが会話に入りづらい雰囲気。
- 能力や経験の過小評価: 若手や特定の属性のメンバーの意見を、経験が浅いという理由だけで軽視したり、功績を正当に評価しなかったりすること。
- その他: 意図しない身体的な接触、プライベートに関する立ち入った質問(セクシュアリティなど)、障害をからかうような言動なども含まれる場合があります。
これらの言動は、発言した側には悪気がない場合が多いですが、受け手は「自分はこのチームで完全に受け入れられていない」「個人としてではなく、〇〇という属性の代表として見られている」と感じてしまいます。その結果、心理的安全性が低下し、オープンなコミュニケーションが阻害され、チーム全体のパフォーマンスにも悪影響を及ぼす可能性があるのです。
リーダーが持つべき心構えと役割
マイクロアグレッションへの対処において、リーダーは極めて重要な役割を担います。まず重要なのは、「マイクロアグレッションはどこのチームでも起こりうる」という認識を持つことです。そして、完璧なリーダーである必要はありませんが、チームの心理的な健康を守る責任があるという自覚を持つことが大切です。
リーダーは、自身の無意識バイアスに気づき、学び続ける姿勢が求められます。また、「良かれと思って」の言動や、場を和ませるための冗談が、実は誰かを傷つけている可能性を理解しておく必要があります。
最も大切なのは、「気づく」感度を高めることと、「対応する」勇気を持つことです。メンバー間のやり取りに注意深く耳を傾け、普段と違う様子がないか観察する。そして、懸念を感じた場合には、見て見ぬふりをせず、適切に対処する一歩を踏み出す心構えが必要です。
チーム内のマイクロアグレッションへの具体的な対応策
では、実際にマイクロアグレッションの可能性に気づいた場合、リーダーはどのように対応すれば良いのでしょうか。予防と発生時の対応に分けて具体的なステップをご紹介します。
1. 予防策:マイクロアグレッションが起きにくいチーム文化を築く
- 無意識バイアスとマイクロアグレッションについての共通理解を醸成する: チーム内で簡単な勉強会や情報共有の機会を設けることを検討してください。「どのような言動がマイクロアグレッションにあたる可能性があるか」「なぜそれが問題なのか」といった基本的な知識を共有するだけでも、メンバーの意識は変わります。外部の研修やオンラインツールを活用するのも有効です。
- インクルーシブなコミュニケーションのガイドラインを設定する: チーム内で「お互いを尊重するために、どのような言葉遣いや態度を心がけるか」について話し合い、共通のガイドラインを作成します。例えば、「憶測で話さず、本人に直接確認する」「属性による決めつけを避ける」「相手の意見を最後まで聞く」など、具体的な行動指針を定めます。
- 心理的安全性の高い雰囲気づくりを日常的に行う: メンバーが失敗を恐れずに発言でき、安心して質問や相談ができる関係性を築くことが、マイクロアグレッションの抑制に繋がります。リーダー自身がオープンな姿勢を示し、異なる意見や立場にも耳を傾けることから始めましょう。
2. 発生時の対応策:気づきと適切なフィードバック
- 状況の観察と確認: 不適切な言動を見聞きしたり、メンバーから相談を受けたりした場合、まずは状況を落ち着いて観察し、可能であれば他のメンバーにも事実確認を行います。ただし、詮索するような形にならないよう配慮が必要です。
- 該当メンバーへのフィードバック(1対1で):
マイクロアグレッションの可能性がある言動をしたメンバーに対して、1対1で建設的なフィードバックを行います。
- タイミング: 感情的にならず、落ち着いて話せるタイミングを選びます。
- 伝え方: 事実を具体的に指摘し、その言動が他のメンバーにどのような影響を与えうるかを伝えます。非難するのではなく、「あなたの意図は理解しつつも、あの言葉遣いは〇〇さんを傷つけた可能性がある」のように、影響に焦点を当てて伝えます。「良かれと思ってやったことかもしれないが」「悪気はなかったと思うが」といったクッション言葉を用いることで、相手の防御反応を和らげることも有効です。
- 対話: 相手の言い分にも耳を傾け、なぜそのような言動に至ったのか、背景を理解しようと努めます。その上で、今後はどのような点に注意してほしいのか、具体的な行動の改善を促します。
- 被害を受けたメンバーへのケア: マイクロアグレッションを受けた可能性のあるメンバーに対して、状況を確認し、気持ちに寄り添う姿勢を示します。「つらい思いをさせてしまったかもしれない、申し訳ない」という共感と謝罪の言葉を伝えます。その上で、今後安心して働けるようにサポートすることを約束し、必要に応じて相談窓口や人事部門への連携を検討します。
- チーム全体への働きかけ: 特定の個人を責める形ではなく、今回の件からチーム全体として何を学ぶべきか、今後のコミュニケーションで注意すべき点は何か、といった話し合いの機会を持つことも有効です。匿名での意見収集や、改めてインクルーシブコミュニケーションの重要性を共有します。
実践のためのヒント
- 「ハッと」したら立ち止まる: チーム内の誰かの言動や、自身の発言に「あれ?今の、大丈夫だったかな?」と感じたら、その場で立ち止まって考えてみることが第一歩です。
- 客観的な視点を持つ: 自分の常識や価値観が、チームの他のメンバーにとっても同じであるとは限りません。多様な視点が存在することを常に意識します。
- 学び続ける姿勢: 無意識バイアスやマイクロアグレッションに関する情報は常にアップデートされています。書籍や研修などを活用し、継続的に学ぶことが重要です。
- 外部のサポートを活用する: 人事部門、専門家、オンラインコミュニティなど、孤立せずに相談できる場所を見つけておくことも助けになります。
まとめ
チーム内のマイクロアグレッションへの対処は、容易ではありませんが、インクルーシブで生産性の高いチームを築く上で不可欠なリーダーの務めです。日常的なコミュニケーションへの注意、無意識バイアスへの理解、そして不適切な言動に対する勇気ある、しかし配慮深い対応が求められます。
リーダーの皆様がこれらの課題に丁寧に取り組むことは、メンバー一人ひとりが安心して能力を発揮できる環境を作り出し、結果としてチーム全体のエンゲージメント向上と成果達成に繋がります。完璧を目指すのではなく、まずは「気づく」こと、そして「一歩踏み出す」ことから始めてみてください。このサイトが、その実践に向けた具体的なヒントを提供できれば幸いです。