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チーム内の「声の格差」を解消する:インクルーシブな発言機会を公平にするリーダーのアプローチ

Tags: チームマネジメント, インクルージョン, コミュニケーション, リーダーシップ, 多様性

チーム内の「声の格差」とは何か、なぜ解消すべきなのか

ビジネスチームにおいて、全てのメンバーが等しく意見を述べ、議論に参加できているでしょうか。特定のメンバーばかりが発言し、他のメンバーは沈黙している、あるいは意見を述べる機会がない、といった状況は多くのチームで起こり得ます。これは「声の格差」と呼べる現象であり、インクルーシブなチーム運営を目指す上で看過できない課題です。

「声の格差」が存在すると、チームは多様な視点やアイデアを取りこぼすリスクを抱えます。多様なバックグラウンドや経験を持つメンバーは、それぞれユニークな知見や解決策を持っている可能性があるにも関わらず、それがチームの共有財産とならないのです。また、発言機会が得られないメンバーは、自身の貢献が認められていないと感じ、エンゲージメントやモチベーションが低下する可能性があります。これは、個人の成長を妨げるだけでなく、チーム全体のパフォーマンスにも悪影響を及ぼします。

リーダーにとって、「声の格差」に気づき、それを解消するための具体的なアプローチを取ることは、多様なメンバー一人ひとりの能力を最大限に引き出し、真にインクルーシブで成果の出るチームを築くために不可欠な取り組みと言えます。

「声の格差」が生じる背景にある要因

チーム内で「声の格差」が生じる背景には、いくつかの要因が考えられます。これらの要因を理解することが、効果的な対策を講じる第一歩となります。

リーダーが実践すべき具体的なアプローチ

「声の格差」を解消し、全てのメンバーが等しく発言できるインクルーシブな環境を作るために、リーダーは意識的に以下のアプローチを取ることが重要です。

1. 現状の観察と気づきを深める

まずは、誰がどのくらいの頻度で発言しているか、特定の状況で誰の声が通りやすいかなどを意識的に観察します。会議での議事録や、日々のコミュニケーションを振り返ることも有効です。個々のメンバーがどのようなコミュニケーションスタイルを持ち、何に不安を感じているのかを、日頃の1on1などを通じて理解するよう努めます。この「気づき」が改善の出発点となります。

2. 心理的安全性の醸成を最優先にする

メンバーが安心して意見を述べられる環境があってこそ、多様な声が引き出されます。リーダーは以下の点を心がけてください。

3. 発言機会を「設計」し、調整する

自然な流れに任せるだけでなく、リーダーが意識的に発言機会をコントロールします。

4. 異なるコミュニケーションスタイルに配慮する

5. 発言に対する肯定的なフィードバックを行う

勇気を出して発言したメンバー、特に普段あまり話さないメンバーの発言に対しては、「ありがとう」「良い視点ですね」「そのアイデア面白いね」といった肯定的なフィードバックを具体的に行います。これにより、その後の発言へのハードルが下がります。たとえその意見が採用されなかったとしても、意見を述べたこと自体への感謝や評価を伝えることが重要です。

実践例

例えば、ある営業チームでは、経験年数の長いベテラン男性メンバーの発言力が圧倒的に強く、若手や女性メンバーからの新しい提案が出にくい状況でした。リーダーは以下の取り組みを実践しました。

  1. 観察: 会議での発言時間の偏りを意識的に記録・観察しました。
  2. 1on1: 若手や女性メンバーとの1on1で、「会議で発言しにくいことはないか」「どんな時に意見を言いたくなるか」などを丁寧にヒアリングしました。
  3. 会議形式変更: 会議の冒頭に短いチェックインを導入し、アジェンダの主要議題については事前に共有し、各自が意見をチャットツールに書き込む時間を設けました。その後、チャットの内容も参照しながら議論を進めました。
  4. 意識的な声かけ: 事前にチャットで良い意見を投稿していたメンバーに対し、会議中に「〇〇さんがチャットで書いてくれた点について、もう少し詳しく聞かせてもらえますか?」と声をかけました。
  5. フィードバック: 発言があった際には、「〇〇さんの新しい視点のおかげで、別の可能性に気づけました」など、具体的に感謝や評価を伝えました。

これらの継続的な取り組みの結果、徐々に発言するメンバーが増え、チーム全体で多様なアイデアや意見が活発に交わされるようになり、新しい営業戦略にも繋がったという事例があります。

まとめ

チーム内の「声の格差」解消は、単に全員に発言させるという形式的なものではなく、チームの多様な知を結集し、より良い意思決定やイノベーションを生み出すための重要なインクルージョン施策です。リーダーの意識的な観察、心理的安全性の醸成、そして発言機会を公平にするための具体的な「設計」と働きかけが不可欠です。これらの実践を通じて、多様なメンバー一人ひとりが持つポテンシャルを最大限に引き出し、チーム全体の力を高めていくことが期待できます。