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チームの隠れた壁を取り除く:インクルーシブな「暗黙のルール」改善ガイド

Tags: インクルージョン, チームマネジメント, リーダーシップ, 無意識バイアス, 組織文化

チームの「隠れた壁」に気づく:インクルーシブな「暗黙のルール」への対応

チーム運営において、明文化されたルールや手続きに加えて、無意識のうちに形成され、共有されている「暗黙のルール」や「慣習」が存在します。これらは、チームの円滑な運営や文化形成に寄与する側面がある一方で、多様なバックグラウンドを持つメンバーにとっては、気づきにくく、馴染みにくく、時にはそのチームでの活躍を妨げる「隠れた壁」となる可能性があります。

リーダーにとって、この「隠れた壁」の存在に気づき、それがインクルージョンを阻害していないかを見直し、必要に応じて改善していくことは、多様なメンバーが等しく貢献し、その能力を最大限に発揮できるチームを作る上で非常に重要です。

「暗黙のルール」がインクルージョンを阻害する構造

チームの「暗黙のルール」とは、特定の行動様式、コミュニケーションスタイル、優先順位付け、意思決定のプロセスなどが、明文化されていないにも関わらず、メンバー間で共有され、期待されている規範です。例えば、以下のようなものが考えられます。

これらの慣習は、長くチームにいるメンバーにとっては自然で効率的に感じられるかもしれませんが、新しく加わったメンバーや、異なる文化、ライフスタイル、あるいはコミュニケーションの好むメンバーにとっては、理解するのに時間がかかったり、参加が難しかったり、疎外感を感じたりする原因となります。結果として、情報格差が生まれ、貢献意欲が低下し、チーム全体のパフォーマンスにも影響を与えかねません。

「隠れた壁」に気づくためのリーダーのアプローチ

インクルージョンを阻害する「暗黙のルール」に気づくためには、リーダー自身が意識的に様々な視点を取り入れる必要があります。

  1. メンバーの声に耳を傾ける機会の創出:
    • 1on1ミーティングで、「チームの良いところ、変えたいところはありますか?」「チームのやり方で戸惑ったことはありますか?」といったオープンな質問を投げかける時間を設けます。
    • 匿名でのアンケートや意見箱を活用し、率直なフィードバックを得られる仕組みを検討します。
  2. 異なる視点を持つメンバーの経験に学ぶ:
    • 新しくチームに加わったメンバーや、育児・介護、リモートワークなど異なる働き方をしているメンバーに、チームの「当たり前」がどのように見えているかを聞いてみます。彼らの経験は、慣習がもたらす課題を浮き彫りにする貴重な示唆を含んでいます。
  3. 自身の無意識バイアスへの気づき:
    • リーダー自身も特定の慣習に無意識に沿っている可能性があります。自身の行動や判断が、特定の「暗黙のルール」に影響されていないか、立ち止まって振り返る習慣を持ちます。バイアスに関する学習も有効です。
  4. チームでの「当たり前」を問い直す対話:
    • チームミーティングの一部で、「私たちが当然だと思っていることの中で、他の人にはそうでないかもしれないものはありますか?」といったテーマで対話する時間を設けます。これにより、チーム全体で「隠れた壁」の存在を認識する機会が生まれます。

インクルーシブな「慣習」へ改善するための実践策

「隠れた壁」の存在に気づいたら、具体的な改善策を講じます。目指すのは、特定のメンバーだけが得をする、あるいは不利になる慣習をなくし、多様なメンバーが公平に、そして快適に貢献できるチームにすることです。

  1. 重要な情報の明文化と共有の徹底:
    • 業務に必要な情報、チームの決定事項、よく使うツールやプロセスの手順などを、特定のメンバーしか知らない状態にせず、全員がいつでもアクセスできる共通のドキュメントやツールに集約し、共有を義務付けます。
  2. インクルーシブなコミュニケーションルールの設定:
    • 会議においては、参加者全員に発言機会を設ける工夫(例: 順番に短いコメントを求める、チャットで意見を募る)を導入します。また、特定の専門用語や略語の使用を避けるか、必ず補足説明を加えるルールを作ります。
    • 非公式な会話での情報共有だけでなく、公式な場やツールでの共有を推奨・徹底します。
  3. 柔軟な参加を可能にする代替策の提供:
    • 例えば、チームの親睦会を企画する際に、終業後の飲食を伴うものだけでなく、勤務時間内のランチ交流や、オンラインでのゲームイベントなど、多様なメンバーが参加しやすい選択肢を複数用意します。
    • 特定のメンバーに雑務が集中しないよう、役割分担をローテーション制にしたり、タスク管理ツールで可視化したりする仕組みを導入します。
  4. 評価・承認プロセスの透明化:
    • どのような行動や成果が評価されるのか、その基準を明確にし、メンバー全員に周知します。また、目立ちにくい貢献や、サポート役としての貢献も積極的に承認・評価する文化を醸成します。
    • 特定の「暗黙のルール」に沿った行動が、不当に高く評価されることのないよう注意します。
  5. 継続的なフィードバックと改善:
    • 導入した改善策が実際にチームのインクルージョンを高めているか、定期的にメンバーからのフィードバックを収集します。そして、その結果をもとに、更なる改善や新しい慣習作りを進めます。インクルーシブなチーム文化は、一度作って終わりではなく、継続的に育てていくものです。

まとめ

チームの「暗黙のルール」や「慣習」は、時に多様なメンバーにとっての「隠れた壁」となり、その活躍を阻害する可能性があります。リーダーは、この目に見えない壁の存在に意識的に気づき、メンバーの声に耳を傾け、自身のバイアスを認識することが第一歩です。そして、情報の透明化、コミュニケーションルールの設定、柔軟な選択肢の提供、公平な評価プロセスの確立といった具体的な施策を通じて、インクルーシブな慣習へとチームを導くことが求められます。

インクルーシブな「慣習」作りは、チームの心理的安全性を高め、メンバー間の信頼関係を深め、最終的にはチーム全体のエンゲージメントとパフォーマンス向上に繋がります。リーダーシップを発揮し、すべてのメンバーが自分らしく、安心して貢献できるチーム環境を築きましょう。