インクルーシブ組織実践NAVI

多様な働き方を支えるチームマネジメント:リーダーのための柔軟な制度活用と環境整備

Tags: 多様な働き方, チームマネジメント, インクルージョン, 柔軟な勤務, リーダーシップ

ビジネス環境の変化やライフスタイルの多様化に伴い、チームメンバーが求める働き方も多様化しています。育児、介護、自己啓発、地域活動への参加など、仕事と両立したい要素は人それぞれであり、画一的な働き方では優秀な人材の確保や、メンバー一人ひとりの能力を最大限に引き出すことが困難になってきています。特にジェンダー平等の観点からは、従来の性別役割分業に基づく働き方の前提を見直し、多様なライフイベントを抱えるメンバー(特に女性が多い育児や介護の担い手)がキャリアを中断することなく活躍できる環境を整備することが喫緊の課題と言えます。

本記事では、チームのリーダーが多様な働き方を支援するために実践できる、具体的な制度活用支援やチームマネジメントのノウハウについて解説します。メンバーのエンゲージメントと生産性を向上させ、インクルーシブなチームを築くためのヒントを提供します。

多様な働き方支援の重要性とリーダーの役割

なぜ今、多様な働き方支援がビジネスにおいて重要なのでしょうか。第一に、優秀な人材の定着と獲得に不可欠だからです。多様な働き方を支援する企業は、求職者にとって魅力的に映り、既存の従業員の満足度とロイヤルティも高まります。第二に、チーム全体の生産性と創造性の向上に繋がります。多様な視点や経験がチームにもたらされ、問題解決能力が高まることが研究でも示されています。第三に、予期せぬライフイベントが発生した場合でも、柔軟に対応できる組織文化があれば、事業継続性にも貢献します。

これらの実現において、現場のリーダーの役割は極めて重要です。リーダーは、会社が提供する制度を理解し、メンバーが安心して利用できるよう支援する最前線にいます。また、多様な働き方をするメンバーとそうでないメンバーが共に気持ちよく働き、公平性を感じられるチーム環境を築く責任を担っています。リーダーの姿勢一つで、制度が絵に描いた餅になるか、組織の力となるかが決まると言っても過言ではありません。

実践ステップ1:社内制度を理解し、活用を促す

多様な働き方を支援するための第一歩は、自社にどのような制度があるのかをリーダー自身が正確に理解することです。育児休業、介護休業、短時間勤務制度、フレックスタイム制度、リモートワーク制度、サテライトオフィス利用制度など、利用可能な制度とその条件、申請プロセスを把握します。

次に、これらの制度についてチーム内でオープンに話し合える雰囲気を作ります。メンバーが「この制度を使いたいけれど、チームや上司に迷惑がかかるのではないか」といった懸念を抱きがちです。リーダーは、制度はメンバーの権利であり、利用は前向きに検討されるべきことであるというメッセージを明確に伝える必要があります。定期的な1on1ミーティングなどを活用し、メンバーの現在の状況や今後の働き方に関する希望、不安などを丁寧にヒアリングします。

例えば、育児短時間勤務を希望するメンバーがいる場合、そのメンバーと話し合い、業務内容の見直しや優先順位付け、チーム内での業務分担について具体的に計画を立てます。その際、制度を利用しない他のメンバーへの業務負荷が偏らないよう、チーム全体で協力体制を築くことの重要性を共有します。特定のメンバーだけが特別扱いされていると感じさせない配慮が不可欠です。これは、特定の属性(例えば女性であること)を理由に、キャリアの選択肢が狭まることのないようにするためにも重要なステップです。

実践ステップ2:インクルーシブなチーム環境を整備する

多様な働き方をするメンバーがチームの一員として疎外感を感じることなく、最大限に貢献できる環境を整備します。

まず、情報共有の公平性を保つことが重要です。リモートワークのメンバーがいる場合、オフィスでの立ち話で決まった内容が共有されない、といったことが起こり得ます。情報共有は特定の場所に依存せず、オンラインツールを活用するなどして、誰もが必要な情報にアクセスできる仕組みを作ります。議事録の共有、チャットツールの活用ルール設定などが有効です。

コミュニケーション機会の最適化も必要です。全員が集まることが難しい場合でも、定期的なオンラインミーティングや、非同期コミュニケーション(チャットやメールなど、相手が都合の良い時に確認できる方法)を効果的に組み合わせることで、連携を維持します。また、業務だけでなく、雑談やちょっとした相談ができる機会(例:オンラインコーヒーブレイク、非公式チャットチャンネル)を意図的に設けることで、心理的な距離を縮めることも有効です。

評価においては、働き方に関わらず、設定した目標に対する成果や貢献度を公平に評価する基準を明確にします。勤務時間ではなく、どのようなアウトプットを出したかに焦点を当てます。また、プロセスにおける貢献や、チームへの良い影響なども評価の対象に含めることで、多様な働き方をするメンバーの努力が正当に評価されるようにします。

チーム内の相互理解を深めるための取り組みも効果的です。例えば、チームミーティングの冒頭で、各自の今日の働き方(オフィスかリモートか、何時に抜けるかなど)を簡単に共有する時間を設けることで、お互いの状況への理解と配慮が生まれやすくなります。これは、育児や介護などで突発的な対応が必要になる可能性があるメンバーへの心理的なサポートにも繋がります。

リーダーのための具体的なアクションと心構え

多様な働き方を支援する上で、リーダー自身の行動は大きな影響力持ちます。リーダー自身が積極的にリモートワークを活用したり、短時間勤務制度の可能性について言及したりするなど、多様な働き方を肯定的に捉えている姿勢を示すことは、メンバーの安心感に繋がります(ロールモデリング)。

また、メンバーが働き方について懸念や課題を抱えている場合、頭ごなしに否定せず、まずは丁寧に耳を傾ける傾聴の姿勢が不可欠です。「それは難しい」と即答するのではなく、「どうすればそれが可能になるか、一緒に考えてみよう」というスタンスで向き合うことが、信頼関係を構築し、建設的な解決策を見出す鍵となります。

インクルーシブなチーム環境は一度作れば終わりではなく、継続的な改善が必要です。メンバーからのフィードバックを定期的に収集し、チームの状況に合わせて働き方やコミュニケーションの方法を柔軟に見直していく姿勢が求められます。

まとめ:多様な働き方支援がもたらす組織の成長

多様な働き方を支援し、インクルーシブなチーム環境を整備することは、単に一部のメンバーのためのものではありません。これは、全てのメンバーが自分らしく、最大限の力を発揮できる機会を提供し、結果としてチーム全体の生産性、創造性、エンゲージメントを高めるための重要な投資です。

一見、マネジメントの手間が増えるように感じられるかもしれませんが、長期的に見れば、優秀な人材の流出を防ぎ、組織文化を強化し、変化に強い柔軟な組織を作り上げることに繋がります。完璧を目指す必要はありません。まずは小さな一歩から、チーム内で対話を始め、現状を見直し、一つずつ改善を重ねていくことが重要です。多様な働き方を支援するリーダーシップは、これからのビジネスパーソンに不可欠なスキルとなるでしょう。