「貢献の偏り」を防ぐ:多様な働き方・役割のメンバーの貢献を公平に見える化するリーダーの実践ステップ
多様なチームにおける「貢献の見えにくさ」という課題
現在のビジネス環境では、メンバーの働き方や役割は多様化しています。リモートワーク、時短勤務、非定型業務、プロジェクト横断のサポートなど、一律ではない多様な貢献がチームの成果を支えています。しかし、従来のオフィスでの働き方や、特定の成果目標達成に基づいた評価慣習にとらわれていると、これらの多様な貢献が見えにくくなり、「貢献の偏り」が生じるリスクがあります。
貢献が見えにくい状態が続くと、見落とされたメンバーは正当な評価や承認を得られず、不公平感やモチベーション低下に繋がりかねません。また、リーダー自身もチーム全体の貢献を正確に把握できず、適切なリソース配分や育成計画が立てられなくなります。これはインクルーシブな組織運営において看過できない課題です。チーム全体の力を最大限に引き出し、公平性を保つためには、多様な働き方・役割を持つメンバーの貢献を意図的に「見える化」し、偏りをなくすアプローチが不可欠です。
なぜ貢献が見えにくくなるのか?
多様な働き方・役割における貢献が見えにくくなる背景には、いくつかの要因があります。
- 物理的な距離: リモートワークのメンバーは、オフィスでの偶発的な会話や、目に見える作業風景が少ないため、貢献が伝わりにくくなる傾向があります。
- 貢献の性質: 定型的な業務やバックオフィスでのサポート業務、長期的な視点での取り組みなどは、短期的な数値目標に結びつきにくく、その価値が見過ごされがちです。
- 評価基準の偏り: 成果物のみに焦点を当てすぎたり、特定の働き方を前提とした評価基準になっていたりすると、多様な貢献が適切に反映されません。
- 無意識バイアス: リーダーやチームメンバーが無意識のうちに、特定の働き方や役割、あるいは属性に対してポジティブまたはネガティブな見方をしてしまい、貢献の評価に影響を与えることがあります。
- 情報共有不足: 貢献に関する情報が一部のメンバー間でしか共有されていなかったり、共有の方法が多様な働き方に適していなかったりする場合、全体像が見えにくくなります。
これらの要因が複合的に絡み合い、チーム内で貢献の認識に偏りが生まれる可能性があります。
貢献を公平に見える化する実践ステップ
リーダーがこの課題に取り組み、多様なメンバーの貢献を公平に見える化するためには、体系的なアプローチが有効です。ここでは、具体的な実践ステップをご紹介します。
ステップ1:チーム内の「貢献」の定義を広げる
まず、チーム内で「貢献とは何か」について共通認識を持ち、その定義を広げることから始めます。単なる成果物だけでなく、以下のような要素も貢献として明確に位置づけます。
- プロセスへの貢献: 業務遂行方法の改善提案、効率化、品質向上への寄与。
- チームへの貢献: メンバー間の協業促進、ナレッジ共有、新人育成、困っているメンバーへのサポート、チーム文化の醸成。
- 組織への貢献: 部署横断の連携、他部署への協力、社内イベントへの参加・企画。
- 長期的な貢献: 将来的な成果に繋がるような調査、研究、新しい技術の習得と共有。
これらの貢献要素をチームメンバーと共有し、「どのような行動がチームや組織にとって価値を生むのか」について対話することが重要です。
ステップ2:個々の役割と期待される貢献を明確にする
各メンバーの役割に応じて、どのような種類の貢献が期待されるのかを明確に言語化します。職務記述書や目標設定シートに、単なる業務内容だけでなく、期待される具体的な貢献の種類(例:「〇〇に関するナレッジをチームに共有する」「新しいツールの導入をサポートする」など)を盛り込むことが有効です。
特に多様な働き方をしているメンバーに対しては、その働き方の特性を踏まえ、どのような形でチームに貢献してもらうかを具体的に話し合います。これにより、メンバー自身も自身の貢献がどのように評価されるのかを理解しやすくなります。
ステップ3:定期的な対話を通じて貢献を把握する仕組みを作る
リーダーは、メンバーとの定期的な1on1ミーティングなどを通じて、日々の業務や貢献について具体的にヒアリングする機会を設けます。
- 具体的な質問例:
- 「この1週間で、特に手応えを感じたことや工夫した点はありますか?」
- 「あなたが取り組んでいる〇〇(定型業務やサポート業務など)は、チームのどのような目標達成に繋がっていると思いますか?」
- 「最近、誰か他のメンバーの業務をサポートしたり、情報を共有したりしたことはありますか?」
- 「あなたの業務を通じて、チームのプロセスを改善するために気づいた点はありますか?」
これらの対話を通じて、リーダーはメンバーの貢献内容を具体的に把握し、記録しておきます。メンバー自身も、自身の貢献を言語化する機会を持つことで、自己認識が高まります。
ステップ4:貢献をチーム内で共有・承認する場やツールを活用する
把握した個々の貢献をチーム全体で見える化し、互いに承認し合う文化を醸成します。
- チームミーティング: 定例ミーティングで、週間の成果報告に加えて「今週、チームの誰かのこんな貢献が素晴らしいと感じた」といった短い共有タイムを設ける。
- 情報共有ツール: チャットツールやプロジェクト管理ツールの特定のチャンネルで、メンバーが自身の貢献(成果、学び、サポートなど)や、他のメンバーへの感謝を気軽に投稿できる仕組みを作る。
- 社内報・イントラネット: チーム内の好事例や目立たない場所での貢献などを紹介するコーナーを設ける。
- ピアボーナス・サンクスカード: メンバー同士が互いの貢献に対してポイントやメッセージを送り合うシステムを導入する。
重要なのは、形式的な報告だけでなく、具体的な行動やその行動がチームにもたらしたポジティブな影響に焦点を当てることです。
ステップ5:評価プロセスに「見える化」した情報を反映させる
ステップ1〜4で見える化した多様な貢献に関する情報を、人事評価や昇進・昇格の検討プロセスに反映させます。
- 評価基準の中に、成果だけでなく、プロセス、チームワーク、ナレッジ共有といった貢献要素を明示的に含める。
- メンバーの自己評価や、リーダーからのフィードバックにおいて、具体的な貢献エピソード(定性的な情報)を重視する。
- 複数の視点(例:同僚からのフィードバック、他部署からの評価など)を取り入れ、多角的に貢献を把握する。
これにより、特定の働き方や役割のメンバーが、その貢献に見合った正当な評価を受けられるようになります。
リーダーへのメッセージ:インクルーシブな「貢献文化」の醸成
多様なメンバーの貢献を公平に見える化する取り組みは、一度行えば完了するものではありません。これは、チーム内にインクルーシブな「貢献文化」を根付かせるための継続的な努力です。
リーダーが率先して多様な貢献に目を向け、積極的に声に出して承認することで、チームメンバーも互いの多様な貢献を認め合うようになります。この文化が醸成されれば、メンバーは安心して自身の持つ多様なスキルや視点をチームに活かすことができ、結果としてチーム全体のパフォーマンス向上やエンゲージメント強化に繋がります。
この実践ステップは、すぐに明日からでも試せるものばかりです。まずは小さな一歩から、チーム内の「貢献の偏り」をなくし、全てのメンバーの力が輝くインクルーシブなチームを目指していただければ幸いです。