隠れた貢献を見逃さない:多様なメンバーの成果をインクルーシブに評価・承認するリーダーの技術
多様なチームを率いるリーダーにとって、メンバー一人ひとりの貢献や成果を適切に評価し、承認することは、チームのエンゲージメントやパフォーマンスを高める上で極めて重要です。しかし、多様なメンバーがいるチームでは、貢献の形も様々であり、従来の画一的な基準や無意識のバイアスによって、一部のメンバーの重要な貢献が見過ごされてしまう可能性があります。
このような「隠れた貢献」を見逃さず、多様なメンバーが公平に評価・承認されていると感じられる環境をどのように作るか。本記事では、インクルーシブな評価・承認を実践するためのリーダー向けの具体的なアプローチを紹介します。
なぜ多様なチームで「隠れた貢献」は見過ごされやすいのか
チームメンバーのバックグラウンド、経験、コミュニケーションスタイル、あるいは担っている役割が多様であるほど、彼らのチームへの貢献の仕方も多岐にわたります。例えば、以下のような貢献は、従来の「目に見える成果」や「声の大きいメンバーの発言」に比べて見過ごされがちです。
- プロセス改善への貢献: 日々の業務フローを効率化する、非効率な会議の運営方法を見直すなど、地道ながらもチーム全体の生産性を高める貢献。
- チームワークや人間関係への貢献: メンバー間のハブとなる、困っているメンバーを積極的にサポートする、チームの心理的安全性を高める雰囲気づくりに貢献するなど、チームの土壌を育む貢献。
- ナレッジ共有や育成への貢献: 自身の知識やスキルを積極的に共有する、若手や経験の浅いメンバーのメンターとなるなど、チーム全体のスキルアップに貢献する活動。
- 多様な視点の提供: 会議で多数派とは異なる意見を提示する、リスクや課題に対する懸念を表明するなど、意思決定の質を高める貢献。
これらの貢献は、定量的な数値目標のように分かりやすく測定できない場合が多く、また、控えめなコミュニケーションスタイルを持つメンバーによってなされることもあります。さらに、リーダー自身やチームメンバーが持つ無意識のバイアス(例:ジェンダーバイアスにより特定の役割や貢献を特定のジェンダーに期待・結びつけてしまうなど)によって、特定のタイプの貢献や、特定の属性のメンバーによる貢献が見過ごされてしまう可能性も否定できません。
こうした「隠れた貢献」が見過ごされることは、貢献したメンバーのモチベーション低下を招くだけでなく、「正当に評価されない」という不公平感を生み出し、チーム全体の信頼関係やエンゲージメントを損なう原因となります。
インクルーシブな評価・承認を実践するための具体的なアプローチ
多様なメンバーの多様な貢献を適切に見出し、評価・承認するためには、リーダーが意識的に、そして具体的な方法で関与する必要があります。
1. 貢献の定義を広げ、チーム内で共有する
「貢献」とは何か、その定義を定量的な成果だけでなく、プロセス、チームワーク、サポート、ナレッジ共有など、多様な側面を含むものとしてチーム内で共有します。どのような貢献がチームにとって価値があるのかを言語化し、メンバー全員が「自分の多様な活動がチームに貢献しうる」と認識できるように促します。
2. 貢献の「観測機会」を意図的に増やす
リーダーは、メンバーの活動を多角的に把握するための「観測チャネル」を意識的に増やします。
- 1on1ミーティングの活用: 定期的な1on1で、メンバー自身の口から「今週(あるいは特定の期間)に力を入れたこと」「チームに貢献できたと感じること」「他のメンバーの素晴らしいと感じる行動」などを話してもらう時間を作ります。具体的な行動や考え方について掘り下げて質問することで、普段は見えにくい貢献に気づくことができます。
- ピアフィードバックの奨励: チームメンバーがお互いの貢献を認め合い、フィードバックし合う文化を育みます。特定のプロジェクト完了時や定期的なチームミーティングなどで、「〇〇さんのこの動きがチームにとって助けになった」「△△さんが共有してくれた情報が役に立った」といったポジティブなフィードバックを推奨します。ツールを活用するのも有効です。
- 多様な視点からの情報収集: 特定のメンバーの評価を行う際に、リーダーだけでなく、プロジェクトを共にする他のメンバーや、関係部署の担当者など、複数の視点から情報を集めます。これにより、リーダーだけでは気づけなかった貢献を把握できます。
3. 評価・承認の基準を明確にし、透明性を高める
どのような貢献が、どのように評価・承認されるのか、その基準を可能な限り明確にし、チームメンバーに共有します。抽象的な言葉ではなく、具体的な行動や状態として定義することで、メンバーは自身のどのような活動がチームに貢献しているのかを理解しやすくなります。評価プロセスにおける透明性を高めることも、公平感を醸成する上で重要です。
4. 承認の方法を多様化する
承認は、昇給や昇進といったフォーマルな評価だけでなく、日々のコミュニケーションの中でのポジティブなフィードバックや称賛も含まれます。メンバーの性格や好むコミュニケーションスタイルに合わせて、承認の方法を使い分けることが効果的です。
- 1on1での具体的な称賛: 特定の貢献について、1on1でその貢献がチームやプロジェクトにどのように役立ったのかを具体的に伝えます。
- チーム内での共有: 全体ミーティングや社内SNSなどで、特定のメンバーの貢献を具体的に取り上げてチーム全体に共有します。ただし、全てのメンバーが公の場での称賛を好むわけではないため、個々の嗜好にも配慮が必要です。
- 書面での承認: メッセージツールやメールで、感謝の気持ちや貢献内容を具体的に記述して伝えることも、記録として残り、後から見返すことができるため有効です。
- 少しカジュアルな承認: 小さなランチ会やコーヒーブレイクで、労いと感謝の気持ちを伝えるなど、非公式な場での承認も心理的な距離を縮めます。
重要なのは、「承認」という行為自体が、メンバーの貢献が見過ごされていないことを伝え、彼らの行動を肯定的に強化する効果があるという点です。
5. 無意識バイアスへの気づきと修正
評価や承認のプロセスに自身の無意識バイアスが影響していないか、常に自問します。例えば、
- 特定の属性(性別、年齢、国籍、経歴など)を持つメンバーの貢献を、無意識のうちに過小評価したり、特定の役割に限定して見ていないか?
- 自分と似たタイプ(経歴、コミュニケーションスタイルなど)のメンバーの貢献を、無意識のうちに過大評価していないか?
- 「目立たない」貢献(例:地道なサポート、リスク回避のための確認など)を、無意識のうちに軽視していないか?
こうしたバイアスに気づくためには、セルフチェックリストを作成したり、他の信頼できるメンバーや上司に意見を求めたりすることが有効です。評価の際は、具体的な行動事実に基づいて判断することを徹底し、直感や印象に頼りすぎないよう注意します。
まとめ
多様なチームにおけるインクルーシブな評価・承認は、単に公平性を保つだけでなく、多様な強みを持つメンバー一人ひとりが「自分はチームにとって価値ある存在だ」と感じ、最大限の力を発揮するための土台となります。リーダーが意識的に貢献の定義を広げ、観測機会を増やし、基準を明確にし、多様な承認方法を実践し、そして自身のバイアスに注意を払うこと。これらの積み重ねが、チームのエンゲージメントを高め、より強く、より生産的な組織文化を育むことに繋がります。明日からのチームマネジメントにおいて、ぜひこれらのアプローチを取り入れてみてください。