インクルーシブな称賛の実践:多様なメンバーの貢献を公平に承認するリーダーのアプローチ
多様なチームにおける貢献の公平な承認・称賛の重要性
現代のビジネスチームは、性別、年齢、働き方、経験、価値観など、多様なバックグラウンドを持つメンバーで構成されています。このような多様性はチームに革新と活力を与える一方で、リーダーにとっては、メンバー一人ひとりの貢献を適切に認識し、評価し、そして何よりも公平に「承認・称賛」することが重要な課題となります。
従来の評価制度や画一的な称賛の方法だけでは、多様なメンバーの幅広い貢献を見落としたり、特定の属性を持つメンバーへの無意識のバイアスによって、称賛の機会に偏りが生じたりする可能性があります。結果として、一部のメンバーは正当な承認を得られず、モチベーションやチームへのエンゲージメントが低下するリスクも考えられます。
インクルーシブなチームを目指す上で、多様なメンバーが自身の貢献を適切に認められていると感じられる環境を整備することは不可欠です。ここでは、多様なメンバーの貢献を公平に承認・称賛するための実践的なアプローチをご紹介します。
なぜインクルーシブな称賛が必要なのか
インクルーシブな称賛とは、単に成果を褒めるだけでなく、チームへの貢献、新しい視点、プロセスでの努力、多様な働き方の中での工夫など、幅広い貢献を意識的に見つけ出し、多様なメンバーに対して公平かつ適切に承認・称賛することを指します。これは以下の点で重要です。
- モチベーションとエンゲージメントの向上: 自身の貢献が認められていると感じることは、メンバーの働きがいとチームへの貢献意欲を高めます。
- 心理的安全性の醸成: 貢献の種類に関わらず承認される文化は、「何かしら貢献すれば認められる」という安心感を生み、新しい挑戦や率直な意見表明を促します。
- 特定のグループへのバイアス回避: 意図的に多様なメンバーの貢献に目を向けることで、無意識に評価・称賛が偏ることを防ぎ、組織全体の公平性を高めます。
- チーム全体のパフォーマンス向上: 貢献が可視化され、承認されることで、メンバー間の相互理解が深まり、協力関係が強化されます。
多様なメンバーの貢献を公平に承認・称賛するための実践ステップ
多様なメンバーの貢献をインクルーシブに承認・称賛するためには、リーダーの意識と具体的な行動が必要です。以下のステップを参考に、実践してみてください。
ステップ1:「貢献」の定義を再確認し、視野を広げる
成果目標の達成や目立つ活躍だけでなく、以下のような幅広い行動や状態も「貢献」として捉える視点を持ちましょう。
- プロセスへの貢献: 地道なデータ分析、資料作成、タスク管理、関係部署との調整など。
- チームへの貢献: メンバー間の協力を促す行動、知識や情報の共有、困っているメンバーへのサポート、ポジティブな雰囲気作りなど。
- 新しい視点や提案: 異論を唱えること、改善提案、リスクの指摘など。
- 個人の成長と学び: 新しいスキルの習得、困難な課題への挑戦、失敗からの学びなど。
- 多様な働き方の中での工夫: 限られた時間内で効率的に成果を出す、リモート環境での効果的なコミュニケーションなど。
特に、バックオフィス部門のサポート業務や、育児・介護などと両立しながら働くメンバーの貢献は、通常の成果指標では見えにくい場合があります。意識的に目を向け、その価値を認識することが重要です。
ステップ2:貢献を見つけるためのアンテナを高く張る
貢献は、必ずしもリーダーに直接報告されるとは限りません。日常業務の中で、メンバーの行動や成果に意識的に注意を払い、貢献の兆候を見逃さないようにしましょう。
- 観察: メンバーの業務遂行プロセスやチーム内のやり取りを注意深く観察します。
- 傾聴: 1on1ミーティングや日常会話の中で、メンバー自身が語る「大変だったこと」「工夫したこと」「学んだこと」などに耳を傾けます。
- 他者からの情報収集: 他のメンバーや関係部署からの「あの人が助けてくれた」「〇〇さんが詳しい情報を提供してくれた」といった声に注意を払います。ピアボーナス制度や社内SNSでの感謝の投稿なども有効な情報源となり得ます。
自身の無意識バイアスが特定のメンバーやタイプの貢献に目を向けさせにくくしている可能性も意識し、意図的に多様なメンバーの行動に注目するように心がけます。
ステップ3:タイミングと伝え方を多様化する
貢献を見つけたら、できるだけタイムリーに承認・称賛を伝えましょう。そして、伝える方法や場を多様化することがインクルーシブな称賛には不可欠です。
- 公式 vs 非公式: 定期的な評価面談やチームミーティングでの公式な称賛と、ランチタイムや休憩時間などでの非公式な称賛を組み合わせます。
- 全体 vs 個別: チーム全体に共有する形で称賛する場合と、1対1で直接伝える場合があります。特定のメンバーにとっては、大勢の前での称賛が苦手な場合もあるため、本人の性格や状況に合わせて選択します。
- 方法: 口頭での感謝や称賛、メールやチャットでのメッセージ、手書きのサンクスカードなど、様々な方法があります。
重要なのは、「伝わる」方法を選ぶことです。メンバーがどのような形で承認されることを心地よく感じるかを知る努力も大切です。
ステップ4:具体的に、心からの言葉で伝える
抽象的な「よく頑張ったね」だけでは、何が評価されているのか伝わりにくく、他の貢献との違いも曖昧になります。
- 具体性: 「〇〇プロジェクトで、課題△△に対してあなたが提案した新しい手法が、結果として□□という成果に繋がった。素晴らしい発想と実行力だと思う」「今日の会議で、Aさんが発言に詰まった時にあなたが的確にサポートしてくれたおかげで、議論がスムーズに進んだ。チームを助ける素晴らしい行動だった」のように、「どのような行動/結果」が「なぜ(どのように)素晴らしかったのか」を具体的に伝えましょう。
- タイムリー性: 貢献から時間が経つほど、称賛の効果は薄れます。できるだけ早く、貢献が記憶に新しいうちに伝えることが効果的です。
- 真実性: 心からの言葉で伝えることで、単なる形式的なものではないことが伝わります。リーダー自身の感情や感謝の気持ちを乗せて伝えましょう。
ステップ5:公平性を意識し、自身のバイアスをチェックする
インクルーシブな称賛において最も重要なのは公平性です。特定のメンバーや属性に偏らず、チーム全体の中で貢献を見つけ出し、機会を均等に提供しようと努めます。
- 記録: 意識的に、どのようなメンバーに、どのような貢献に対して称賛を伝えたかを記録するのも一つの方法です。これにより、特定のメンバーに偏りがないか、多様な種類の貢献に目を向けられているかを客観的に確認できます。
- 自己認識: 自身の中に無意識のバイアス(例:目立つ成果を上げた人を過剰に評価する、特定の属性の人には期待値を低く設定してしまうなど)がないかを常に自問し、気づく努力をします。研修やフィードバックなどを通じて、自己認識を深めることも有効です。
- 意図的な機会創出: 定期的に、「今回は普段あまり目立たないメンバーの貢献に焦点を当ててみよう」「多様な働き方をしているメンバーの工夫を見つけ出そう」といった意識を持ち、称賛の機会を意図的に創出します。
インクルーシブな称賛を促進するツールや仕組み
チーム全体で貢献を承認し合う文化を醸成するために、以下のようなツールや仕組みの導入も検討できます。
- チーム内チャットの特定チャンネル: 「Good Jobチャンネル」「称賛チャンネル」などを設けて、メンバー同士がお互いの貢献に気づき、気軽に感謝や称賛を伝え合える場を作ります。
- サンクスカード/ピアボーナス: 物理的なカードやシステムを利用して、メンバー同士が感謝のメッセージや少額のポイントなどを送り合える仕組みです。リーダーだけでなく、チーム全体の貢献認知能力を高めます。
- 定期的な共有会: 週次ミーティングなどで、「今週のGood News」「〇〇さんのここがすごかった」といった共有時間を設けます。これにより、普段見えにくい貢献もチーム全体で認識できます。
リーダー自身がこれらの仕組みを率先して活用し、積極的に多様なメンバーの貢献を称賛する姿勢を示すことが、チーム全体にインクルーシブな称賛文化を根付かせる上で最も強力な推進力となります。
まとめ
多様化が進むチームにおいて、メンバー一人ひとりが持つ個性や能力を最大限に引き出し、チーム全体の力を高めるためには、その貢献を公平に認識し、適切に承認・称賛することが不可欠です。単に成果を評価するだけでなく、多様な形の貢献に目を向け、具体的な言葉で、タイムリーに、そしてメンバーに合わせた方法で伝えるインクルーシブな称賛の実践は、チームの心理的安全性を高め、エンゲージメントを向上させ、最終的には持続的な成果に繋がります。
リーダーは、自身の無意識バイアスに気づき、意図的に多様なメンバーの貢献を見つけ出し、公平に称賛する努力を続けることが求められます。今回ご紹介したステップやツールを参考に、ぜひ今日からチームにおけるインクルーシブな称賛の実践に取り組んでみてください。