多様なチームメンバーのモチベーション低下に気づき、インクルーシブな対話で支援するリーダーのアプローチ
チームメンバーのモチベーション低下、どのように察知し、対応するか
リーダーとしてチームを率いる中で、メンバーのモチベーションが一時的に低下したり、業務が停滞したりする状況に直面することは少なくありません。こうした状況は、チーム全体の士気や生産性にも影響を及ぼす可能性があります。
しかし、多様なバックグラウンドや価値観を持つメンバーが集まる現代のチームにおいては、モチベーション低下の兆候も、その原因も、メンバーによって大きく異なります。画一的な声かけや対応では、かえってメンバーを孤立させてしまったり、状況を悪化させてしまったりすることもあります。
ここでは、多様性を尊重し、一人ひとりのメンバーが力を発揮できる環境を作るインクルーシブなリーダーシップの観点から、チームメンバーのモチベーション低下に気づき、建設的な対話を通じて支援するための具体的なアプローチをご紹介します。
モチベーション低下や停滞の多様なサインに気づく
メンバーのモチベーション低下や業務の停滞は、必ずしも明確な形で現れるわけではありません。また、その現れ方は個人の性格、文化、働き方(リモートワークかオフィス勤務かなど)によって多様です。リーダーは、以下のようなサインに注意を払う必要があります。
- 業務パフォーマンスの変化:
- 以前はスムーズだったタスクに時間がかかるようになった。
- ミスが増加した。
- 提出物の質が低下した、あるいは遅延が増えた。
- 新しい業務や挑戦に対して消極的になった。
- コミュニケーションの変化:
- 会議での発言が減った、あるいはほとんどなくなった。
- チームメンバーやリーダーとのやり取りが最小限になった。
- slackやチャットの反応が遅くなった、あるいは簡素になった。
- 表情が乏しくなった、声のトーンが暗くなった(オンライン会議の場合なども含む)。
- 態度や行動の変化:
- 以前より休憩時間が長くなった、あるいは頻繁になった。
- チームイベントやカジュアルな会話への参加を避けるようになった。
- 身だしなみへの関心が薄れたように見える(あくまで一例であり、決めつけは禁物です)。
- リモートワークの場合、オンライン状態になるのが遅くなった、離席が増えた。
重要なのは、これらのサインを「意欲がない」「怠けている」といった否定的な評価に直結させるのではなく、「何か本人が困っていることがあるのかもしれない」という可能性に目を向けることです。特に、異なる文化背景を持つメンバーの場合、サインの現れ方が自身の常識と異なる場合があることを理解し、決めつけずに観察する姿勢が不可欠です。
インクルーシブな対話のための準備
メンバーの状況に気づいたら、次のステップは対話です。この対話がインクルーシブであるためには、一方的な指導や追及ではなく、メンバーが安心して本音を話せるような環境とリーダー自身の準備が必要です。
- 対話の目的を明確にする: 対話は「メンバーを問い詰める」ためではなく、「メンバーの状況を理解し、必要なサポートを共に見つける」ために行うことを心に留めます。
- 心理的安全性が確保できる場所と時間を選ぶ: 他のメンバーに聞かれる心配のない、静かで落ち着ける場所を選びます。リモートの場合は、プライベートな空間で、途中で中断されない時間帯を設定します。メンバーに事前に「少し話したいことがあるのだけど、都合の良い時間はありますか?」と打診し、選択肢を与えることも重要です。
- 自身の無意識バイアスを認識する: リーダー自身が、過去の経験やメンバーへの先入観から「きっとこれが原因だろう」「こうすれば解決するはずだ」といった無意識のバイアスを持っていないか自問します。多様な背景を持つメンバーに対しては、特に自身の文化的視点や経験が全てではないことを意識します。
インクルーシブな対話の実践ステップ
準備ができたら、実際にメンバーと向き合います。以下のステップは、メンバーの多様な状況を受け止め、共に解決策を探るための対話の進め方です。
ステップ1:オープンな姿勢で関心を伝える
まずは、観察に基づいた具体的な事実を伝え、メンバーへの関心と気遣いを示します。評価や非難の言葉は避け、あくまで「状況を共有したい」という姿勢で臨みます。
- 具体的な声かけ例:
- 「〇〇さん、最近少し疲れているように見えますが、体調は大丈夫ですか?」
- 「△△のプロジェクトで、いつもより時間がかかっているように見えましたが、何か難しい点がありますか?」
- 「最近、会議での発言が少ないようですが、何か考え込んでいることでもありますか?」
そして、「何か私に手伝えることはありますか?」「少し話を聞かせてもらえませんか?」と、リーダーとしてのサポート意思を明確に伝えます。
ステップ2:傾聴と共感
メンバーが話し始めたら、深く傾聴します。相手の言葉を遮らず、相槌を打ったり、うなずいたりしながら、「あなたの話を真剣に聞いています」という姿勢を示します。
- アクティブリスニングの実践:
- メンバーが話した内容を要約して伝え返す:「つまり、今は〇〇の点で特に負担を感じているのですね。」
- メンバーの感情に寄り添う:「それは大変な状況ですね。お気持ち、よく分かります。」
- 話の内容や感情について質問を投げかける:「その時、あなたはどのように感じましたか?」「もう少し詳しく教えていただけますか?」
メンバーの話の背景にある文脈や感情を理解しようと努めることが重要です。特に異なる文化や経験を持つメンバーの場合、言葉の裏にある意味や、問題の捉え方が異なる可能性があることを意識し、表面的な理解に留まらないよう努めます。
ステップ3:状況の共有と課題の明確化(共創)
リーダーが認識している状況と、メンバー自身が捉えている状況をすり合わせます。そして、何が問題の根本原因となっているのかを、メンバーと共に探ります。リーダーが一方的に原因を決めつけたり、アドバイスを押し付けたりすることは避けます。
- 共創を促す質問例:
- 「あなたが今、最も困難だと感じているのはどんなことですか?」
- 「この状況は、いつ頃から始まりましたか?何かきっかけはありましたか?」
- 「この課題に対して、あなた自身はどのように感じていますか?どうしたいと考えていますか?」
多様なメンバーからは、仕事の進め方、チーム内の人間関係、評価への不安、プライベートな問題など、様々な要因が語られる可能性があります。それぞれの話を否定せず、まずは「そういう状況なのですね」と受け止めます。
ステップ4:解決策の検討と合意(個別のニーズに対応)
課題が明確になったら、次にどのような解決策があるかをメンバーと一緒に考えます。リーダーが一方的に指示するのではなく、「一緒に解決策を見つけよう」という姿勢で臨みます。
- 解決策検討の進め方:
- メンバーに「どのようにすればこの状況が改善されると思いますか?」「何か試してみたいことはありますか?」と、まずは本人からアイデアを出してもらう。
- リーダーとして提供できるサポートやリソース(例:業務の分担、期限の調整、他のメンバーからのサポート、研修機会、社内外の相談窓口など)を提示し、メンバーのアイデアと合わせて検討する。
- 多様な働き方(例:時短勤務、リモートワークの頻度調整、フレックスタイムの活用)や個別の事情に配慮した、柔軟な解決策を共に探る。
- 実行可能な解決策について合意し、誰が何をいつまでに行うかを明確にする。
このプロセスでは、メンバー一人ひとりの状況やニーズが異なることを前提に、その個人にとって最も効果的な支援策をオーダーメイドで検討することが、インクルーシブなアプローチの鍵となります。
対話後のフォローアップとインクルーシブな環境づくり
対話は一度で終わりではありません。合意した解決策の実行状況を確認し、必要に応じて計画を見直すフォローアップが重要です。
- フォローアップのポイント:
- 定期的に短い時間でも声をかけ、状況を確認する(例:週に一度の1on1で進捗を聞く)。
- メンバーの小さな努力や改善を見逃さず、承認と励ましの言葉をかける。
- もし状況が改善しない場合は、再度対話の機会を持ち、別の解決策を検討する。
- 必要に応じて、人事部門や専門家への相談を促す。
また、メンバーのモチベーション低下は、特定の個人の問題であると同時に、チームや組織の環境要因が影響している可能性もあります。今回のケースを通じて、チーム内のコミュニケーション、業務負荷、評価制度、企業文化などに改善すべき点がないかを振り返ることも、リーダーの重要な役割です。一人ひとりの多様な状況が受け入れられ、安心して困難を打ち明けられるインクルーシブな環境こそが、メンバーのエンゲージメントとパフォーマンスを持続的に支える基盤となります。
まとめ
チームメンバーのモチベーション低下や停滞は、リーダーにとって避けられない課題の一つです。この課題に対し、多様なメンバー一人ひとりに寄り添うインクルーシブな対話を通じて向き合うことは、信頼関係を築き、メンバーの潜在能力を引き出し、最終的にはチーム全体のレジリエンスと生産性を高めることにつながります。今回ご紹介した具体的なステップを参考に、ぜひ日々のリーダーシップの中で実践してみてください。