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育児・介護中のメンバーが活躍できるチーム環境の作り方:リーダーのための具体的なサポート実践

Tags: 育児支援, 介護支援, チームマネジメント, 両立支援, インクルーシブリーダーシップ

育児・介護と仕事の両立を支えるチーム環境の必要性

今日のビジネス環境において、チームメンバーが育児や介護と仕事を両立することは、ますます一般的になっています。これは、単に個人のライフイベントに留まらず、チーム全体のパフォーマンスや継続性、さらには組織のダイバーシティ&インクルージョンを推進する上で極めて重要な課題です。

育児や介護は予期せぬ状況や時間的な制約をもたらすことがあり、これらが仕事の進め方やキャリア形成に影響を与える可能性があります。チームリーダーは、こうした状況にあるメンバーが安心して業務に取り組み、その能力を最大限に発揮できるような環境を整える責任があります。これは、特定のメンバーへの「特別扱い」ではなく、多様な状況にある全てのメンバーが公平に貢献できるインクルーシブなチーム文化を醸成する一環として捉えるべきです。

本稿では、育児・介護中のチームメンバーをサポートし、チーム全体のエンゲージメントと生産性を向上させるために、リーダーが実践できる具体的なアプローチについて解説します。

チーム全体で共通認識を持つ重要性

特定のメンバーの育児や介護をチームでサポートするためには、まずチーム全体がこの課題に対する共通認識を持つことが不可欠です。これは、単に制度を知っているということではなく、「なぜサポートが必要なのか」「チームとしてどのように協力し合うのか」といった点について、理解を深めることを意味します。

リーダーは、育児や介護が仕事に与える影響について、デリケートな個人情報に踏み込むことなく、一般的な情報提供や対話の機会を通じてチームメンバーの理解を促すことができます。例えば、社内で利用可能な両立支援制度について周知したり、多様な働き方に関するワークショップを実施したりすることが考えられます。チーム全体で「お互い様」という意識や、急な状況変化にも対応できる柔軟性を持つことの重要性を共有することで、特定のメンバーへのサポートがスムーズに行われる土壌を作ります。

リーダーが実践できる具体的なサポート策(仕組み・制度活用)

育児・介護中のメンバーをサポートするために、リーダーは利用可能な仕組みや制度を最大限に活用し、チームの運用を工夫する必要があります。

  1. 柔軟な働き方の検討と適用支援:

    • 社内にある時短勤務、フレックスタイム、リモートワークなどの制度をメンバーが利用しやすいように促します。
    • その際、単に制度を紹介するだけでなく、個別の状況に合わせて「どのように制度を活用できるか」を具体的に一緒に検討する姿勢が重要です。
    • 「この業務はリモートで可能か」「この会議は時間を調整できないか」など、業務内容やチームの状況に応じた柔軟な対応を模索します。
  2. 情報共有の工夫:

    • 急な欠勤や離席が発生した場合でも業務が滞らないよう、情報共有の方法を見直します。
    • 非同期コミュニケーション(チャット、掲示板など)の活用を推奨し、全員が同じタイミングで情報を得る必要がない状況を作ります。
    • 会議の議事録を詳細に残し、参加できなかったメンバーも後から内容を確認できるようにします。重要な決定事項は必ず記録し、共有します。
  3. 業務分担の見直しと標準化:

    • 特定の個人にしかできない業務(属人化している業務)を減らし、チーム内で協力して進められる体制を構築します。
    • 業務マニュアルの作成や、担当者のバックアップ体制を整備することで、誰かが不在でも他のメンバーがカバーできる仕組みを作ります。
    • 定期的にチームの業務量や担当状況を確認し、必要に応じて調整を行います。
  4. 短時間勤務や休暇制度に関する正しい理解と周知:

    • リーダー自身が、育児・介護に関する休暇制度や短時間勤務制度の内容を正しく理解します。
    • これらの制度利用がネガティブな影響を与えないよう、チーム内に制度の目的や利用状況に対する偏見がないか注意を払い、正しい理解を促します。

リーダーが実践できる具体的なコミュニケーション

制度や仕組みの整備に加え、リーダーのコミュニケーションは育児・介護中のメンバーの安心感と活躍を支える上で極めて重要です。

  1. オープンで対等な対話の機会設定:

    • 1on1ミーティングなどを活用し、メンバーの状況やニーズについて定期的に話を聞く機会を設けます。
    • 仕事の進捗だけでなく、両立における課題や必要なサポートについて、メンバーが安心して話せる雰囲気を作ります。ただし、プライベートに過度に立ち入るのではなく、あくまで「仕事に集中するためにどのようなサポートが必要か」という視点での対話を心がけます。
  2. 必要なサポートについて本人と具体的に話し合う:

    • 「どのようなサポートがあれば仕事がしやすくなるか」「具体的な困りごとは何か」を本人に直接確認します。
    • リーダーやチームとして提供できるサポートの範囲を明確に伝え、実現可能な対応策を具体的に検討します。
  3. 他のチームメンバーへの状況説明と協力依頼:

    • 本人の同意を得た上で、チームメンバーに対して、なぜ特定のメンバーが柔軟な働き方をしているのか、どのような状況にあるのか(差し支えない範囲で)を説明し、理解と協力を求めます。
    • この際、「大変そうだから手伝ってあげよう」といった上から目線ではなく、「チームとして最高のパフォーマンスを出すために、多様な働き方を認め、互いに協力し合うことが重要だ」というポジティブなメッセージで伝えます。
  4. 感謝と貢献の可視化:

    • 育児や介護と両立しながら貢献しているメンバーの努力や成果を適切に評価し、言葉にして伝えます。
    • 特定のメンバーをサポートしている他のチームメンバーの貢献も認識し、感謝を伝えます。これにより、「お互い様」の文化が育まれます。
  5. 困難やトラブル発生時の冷静かつ建設的な対応:

    • 急な欠勤や予定変更が発生した際に、感情的にならず、冷静に状況を把握し、チームでどのようにカバーするかを速やかに判断・指示します。
    • 問題が起きた原因を個人的な責任として追及するのではなく、仕組みやプロセスに改善の余地がないかという視点で振り返りを行います。

チーム全体の協力体制を育む

育児・介護中のメンバーへのサポートは、特定のメンバーのためだけでなく、チーム全体のインクルージョンレベルを高める機会でもあります。

チーム全体で、互いの多様な状況を理解し、支え合う文化を育むことが重要です。「困ったときはお互い様」「誰かが抜けてもカバーできる強靭なチーム」といった意識を共有することで、育児や介護に限らず、様々なライフイベントや予期せぬ状況に対応できるレジリエンスの高いチームを構築することができます。

定期的なチームミーティングで、業務の進捗だけでなく、チーム運営における課題や改善点(情報共有の方法、業務分担の偏りなど)について自由に意見交換する時間を設けることも有効です。これにより、メンバーが主体的にチームのインクルーシブな環境づくりに参加する意識が高まります。

まとめ

育児・介護中のチームメンバーが活躍できる環境を整えることは、リーダーにとって重要な役割の一つです。これは、単に特定のメンバーをサポートするだけでなく、チーム全体の柔軟性、協力体制、そしてインクルージョンレベルを高めることに繋がります。

リーダーが、制度や仕組みの活用、そしてきめ細やかなコミュニケーションを実践することで、育児や介護と仕事を両立するメンバーは安心して能力を発揮できるようになり、チーム全体のエンゲージメントと生産性向上に貢献します。ぜひ、本稿で紹介した具体的なアプローチを参考に、あなたのチームで実践してみてください。