多様なメンバーへのメンタリング・スポンサーシップ機会を公平に提供する:リーダーのための実践ステップ
メンタリング・スポンサーシップがチームにもたらす価値と公平な機会提供の重要性
ビジネス環境が多様化し、組織の競争力を高めるためには、多様なバックグラウンドを持つメンバー一人ひとりの能力を最大限に引き出し、成長を支援することが不可欠です。キャリア形成において重要な役割を果たすのが、メンタリングやスポンサーシップといった支援の機会です。
メンタリングは、経験豊富な先輩社員が後輩や部下に対し、キャリアやスキルの開発に関するアドバイスや示唆を提供することで、成長を促進する関係性を指します。一方、スポンサーシップは、影響力のある立場の人物が特定のメンバーの能力や貢献を認識し、昇進や重要なプロジェクトへのアサインなど、キャリアアップに繋がる具体的な機会を提供したり、推薦したりする、より能動的な支援です。
これらの機会は、個人のスキルアップやモチベーション向上に寄与するだけでなく、チーム全体の知識共有や連帯感を深め、将来のリーダー育成にも繋がります。しかし、これらの機会が無意識のバイアスによって特定の属性のメンバーに偏ってしまうと、キャリア形成における不公平感を生み、多様なタレントの流出リスクを高めることに繋がります。リーダーは、意図的に多様なメンバーに対して公平にメンタリングやスポンサーシップの機会を提供することが求められます。
公平な機会を提供するためのリーダーの実践ステップ
多様なチームメンバー全員が、その能力や貢献に見合ったメンタリングやスポンサーシップの機会を得られるようにするために、リーダーが実践できる具体的なステップをいくつかご紹介します。
ステップ1:自身の無意識バイアスを認識する
まずは、自分自身が持つ可能性のある無意識バイアスに気づくことが第一歩です。人は無意識のうちに、自分と似た属性やバックグラウンドを持つ人に親近感を覚えたり、特定の役割に特定の属性の人を重ね合わせたりする傾向があります。このようなバイアスが、メンタリングやスポンサーシップの相手を選定する際に影響を与えている可能性を認識することが重要です。
リーダー向けの無意識バイアス研修に参加したり、自己診断ツールを活用したりすることが有効です。また、信頼できる同僚や人事担当者との対話を通じて、自身の傾向について客観的な視点を得ることも助けとなります。
ステップ2:メンバーのニーズと潜在能力を把握する
チームメンバー一人ひとりが、どのようなキャリア目標を持っているのか、どのようなスキル開発や経験を求めているのかを深く理解します。定期的な1on1ミーティングやキャリア面談の機会を活用し、メンバーの意向や強み、そして伸ばしたい領域について具体的に聞き取ります。
その際、表面的な成果だけでなく、チームへの貢献度、潜在的なリーダーシップ、新しい挑戦への意欲など、目に見えにくい要素にも注意を払うことが大切です。すべてのメンバーに対し、分け隔てなく関心を持ち、話を聞く姿勢を示すことが信頼関係の構築に繋がります。
ステップ3:メンタリング・スポンサーシップ機会を可視化し、メンバーと共有する
社内には、正式なメンター制度、特定のスキルに関するワークショップ、重要なプロジェクト、社内外の研修機会など、様々な育成・成長の機会が存在します。また、リーダー自身の経験やネットワークも貴重なメンタリング・スポンサーシップのリソースとなり得ます。
これらの機会をリストアップし、チーム内で共有することで、メンバーがどのような機会があるのかを知り、自ら手を挙げやすくなります。リーダーは、これらの機会とメンバーのニーズを結びつける役割を担います。
ステップ4:多様なメンバーに意図的に機会を提供する
特定のメンバーに機会が偏らないように、意識的に多様なメンバーへメンタリングやスポンサーシップの機会を提供します。
- メンタリング: メンバーのキャリア目標や課題に合ったメンター(社内外問わず)を紹介することを検討します。自身がメンターとなる場合も、多様なメンバーと積極的に関わる時間を作ります。
- スポンサーシップ: 重要な会議での発言機会、新しいプロジェクトへの参加、社内外の発表機会、昇進・昇格への推薦など、メンバーの成長に繋がる具体的な機会を意識して提供します。特に、これまであまり目立つ機会がなかったメンバーに焦点を当てることも有効です。その際、なぜその機会を提供するのか、期待する成果は何かを明確に伝えます。
ステップ5:機会提供のプロセスを定期的に振り返る
どのようなメンバーに、どのようなメンタリングやスポンサーシップの機会が提供されているか、定期的に振り返ります。チーム全体の育成状況を俯瞰し、特定の属性やバックグラウンドを持つメンバーに機会が偏っていないか、意図的に提供できているかをチェックします。
必要に応じて、人事担当者や他のリーダーと情報を共有し、組織全体での公平な機会提供について連携することも効果的です。振り返りの結果に基づき、今後の機会提供の計画を調整します。
実践上のヒント
- フォーマルな制度だけでなく、インフォーマルな関わりも大切にする: 正式なメンター制度がない場合でも、日常的なコミュニケーションの中で、経験談を共有したり、キャリアに関する示唆を与えたりすることは立派なメンタリングとなり得ます。
- メンバーの意向を尊重する: 機会を提供する際は、必ず本人の意向を確認します。メンタリングやスポンサーシップは自発的な関わりが重要です。
- チーム内で互いを支援する文化を醸成する: メンタリングやスポンサーシップをリーダーだけが行うのではなく、チームメンバー同士が互いの成長を支援し合うピアメンタリングのような文化を育むことも効果的です。
- 秘密保持に配慮する: メンタリングやスポンサーシップで話された個人的な内容については、本人の許可なく他者に共有しないなど、信頼関係を守ることが重要です。
まとめ
多様なメンバーへのメンタリング・スポンサーシップ機会を公平に提供することは、単に「良いこと」であるだけでなく、チーム全体の能力開発を促進し、エンゲージメントと定着率を高め、将来のビジネスを担う多様なリーダーを育成するために不可欠なリーダーの役割です。自身のバイアスに気づき、メンバーのニーズを把握し、意図的に機会を提供し、プロセスを振り返るこれらの実践ステップを通じて、すべてのメンバーが輝けるインクルーシブなチーム環境を構築していくことが期待されます。