多様なメンバーのキャリア目標を引き出し、チーム目標と結びつける実践ガイド:公平な成長機会を創出するリーダーのアプローチ
なぜ多様なメンバーのキャリア目標把握と整合が重要なのか
チームを率いるリーダーにとって、メンバーの成長を支援することは重要な役割の一つです。特に多様なバックグラウンドや価値観を持つメンバーが増える現代において、一人ひとりのキャリアに対する考え方や目標は一様ではありません。リーダーがメンバーそれぞれのキャリア目標を深く理解し、それをチームや組織全体の目標達成に結びつけていくことは、以下の点で不可欠となります。
- エンゲージメントとモチベーションの向上: メンバーは自身のキャリア成長がチームへの貢献を通じて実現できると感じることで、より主体的に業務に取り組み、高いモチベーションを維持しやすくなります。
- チームパフォーマンスの最大化: メンバーの持つ多様なスキルや経験、将来的に伸ばしたい能力を把握し、適切な役割や機会を与えることで、チーム全体の能力が向上し、成果創出に繋がります。
- 定着率の向上: キャリアパスが見えず、成長機会が不公平に感じられる場合、メンバーは離職を検討しやすくなります。公平な支援と成長機会の提供は、優秀な人材の定着に貢献します。
- インクルーシブな文化の醸成: すべてのメンバーに対して、その属性に関わらず公平にキャリア支援の機会を提供し、成長を応援する姿勢は、チーム全体のインクルージョン度を高めます。
一方で、リーダー自身の無意識バイアスが、特定の属性(例: 性別、年齢、働き方など)のメンバーのキャリア志向を見過ごしたり、過小評価したりする可能性も存在します。これを回避し、すべてのメンバーに対して公平な成長機会を創出するためには、意図的かつ具体的なアプローチが求められます。
多様なメンバーのキャリア目標を引き出すための対話術
メンバーのキャリア目標を効果的に引き出すためには、形式的な面談にとどまらない、質の高い対話が不可欠です。以下にその実践的なステップとポイントを示します。
ステップ1: 対話のための信頼関係構築と雰囲気作り
- 定期的な1on1の活用: 短時間でも良いので、業務の進捗だけでなく、メンバー個人の成長やキャリアについて話す時間を意識的に設けます。
- 心理的安全性の確保: メンバーが自身の本音や不安、まだ漠然としている考えも安心して話せるよう、「評価」ではない「傾聴」の姿勢を示します。judgment-freeな雰囲気作りが重要です。
- リーダー自身の自己開示: リーダー自身がキャリアについてどのように考え、どのような経験を経てきたかを話すことで、メンバーも話しやすくなることがあります。
ステップ2: 効果的な質問でキャリア志向を深掘りする
一方的に質問攻めにするのではなく、メンバー自身の言葉で語ってもらうことを促します。以下に質問の例を挙げますが、これらの質問はあくまで対話を始めるための糸口です。
- 過去の経験:
- 「これまでの仕事で最も楽しかったこと、やりがいを感じたのはどんな時でしたか?」
- 「どんな業務やプロジェクトで、自分の強みを最も発揮できたと感じますか?」
- 現在の興味・関心:
- 「今、仕事の中で最も関心があるのはどんなことですか?」
- 「今後、どのようなスキルや知識を身につけていきたいですか?」
- 「チームの中で、あるいは会社全体で、どんな課題に関心がありますか?」
- 将来の展望:
- 「3年後、5年後に、仕事を通じてどのような状態になっていたいですか?」
- 「理想とする働き方や役割はありますか?」
- 「どんな貢献をすることで、チームや組織に最も価値を提供できると感じますか?」
- 成長への期待:
- 「現在、成長のためにどんな機会があれば良いと感じますか?(研修、新しい業務、メンターなど)」
- 「チームとして、私がリーダーとして、あなたの成長のためにどのようなサポートができますか?」
ステップ3: 無意識バイアスに気づき、公平性を保つ
メンバーの話を聞く際に、リーダー自身の持つ「〇〇さんはこのタイプの仕事が得意だろう」「この役割は男性(または女性)向きだ」「子育て中のメンバーは残業できないだろうから重要なプロジェクトは任せにくい」といった固定観念や無意識バイアスが影響していないかを意識します。
- 自己チェック: 自身の無意識バイアスについて学び、どのようなバイアスを持ちうるかを認識します。
- アクティブリスニング: メンバーの話を遮らず、最後まで丁寧に聞き、話された内容を繰り返し確認することで、自分の解釈や先入観が入っていないかチェックします。
- 多様なキャリアパスの提示: メンバーの志向を聞く際に、昇進だけでなく、専門性を深める、他部署を経験する、プロジェクトリーダーを務める、社内トレーナーになるなど、多様なキャリアの選択肢や社内外の事例を提示することで、メンバーの視野を広げることができます。
個別目標とチーム目標を効果的に結びつけるアプローチ
メンバーのキャリア志向を把握した後は、それをチーム・組織の目標達成にいかに繋げるかを具体的に検討します。
ステップ1: チーム・組織の目標と必要な能力を明確に共有する
- チームや部門の短期・長期目標、事業戦略をメンバーに分かりやすく伝えます。
- 目標達成のために現在チームに不足しているスキル、今後必要になる能力、担うべき役割を具体的に示します。
ステップ2: 個別目標とチーム目標の接点を見つける
- メンバーのキャリア志向と、チームが必要としている能力や役割を照らし合わせます。
- 「〇〇さんが関心を持っている△△の領域は、まさにチームが今後強化したい部分です。具体的なプロジェクト□□で経験を積んでみませんか?」のように、具体的な業務やプロジェクト、学習機会と結びつけて提案します。
- メンバーの「やりたいこと」がすぐにチーム目標と直結しない場合でも、長期的な視点でどのように繋げられるか、あるいはまずは関連性の低い業務の中でも活かせる部分がないかなどを共に探ります。
ステップ3: 具体的な行動計画と機会を設定する
- メンバーのキャリア目標達成に向けた具体的な行動計画(例: どの業務をどのように進めるか、受けるべき研修、相談相手、必要な期間など)を一緒に立てます。
- 計画を実行するための具体的な機会(例: 特定のプロジェクトへのアサイン、社内勉強会の開催、外部研修への参加、メンターのマッチングなど)を提供または検討します。
- ストレッチゴール(現在の能力より少し上の挑戦的な目標)を設定する際は、適切なサポート体制を整えることが重要です。
ステップ4: 定期的なフォローアップと軌道修正
- 一度設定した目標や計画は、状況に応じて見直しが必要です。定期的な1on1などで進捗を確認し、課題があれば共に解決策を探ります。
- メンバーのキャリア志向や状況が変わることもあります。それに合わせて目標や計画を柔軟に見直す姿勢を示します。
まとめ
多様なメンバー一人ひとりのキャリア目標を丁寧に引き出し、チーム・組織の目標達成と結びつけていくプロセスは、一朝一夕に完成するものではありません。リーダーが自身の無意識バイアスに注意を払いながら、メンバーとの継続的な対話を通じて信頼関係を築き、公平な視点で成長機会を提供し続けることが不可欠です。
この実践を通じて、メンバーは「自分はチームにとって必要な存在であり、成長が期待されている」と感じるようになり、自律的に貢献しようとする意識が高まります。それは結果として、エンゲージメントの向上、チームパフォーマンスの最大化、そしてすべての人材が公平に活躍できるインクルーシブな組織文化の醸成に繋がるでしょう。リーダーがこれらのステップを実践することで、多様性を真の強みとするチームを築くことが可能となります。