「言っても無駄」をなくす:多様なメンバーが遠慮なく発言できる心理的安全性の作り方
チームを率いるリーダーの皆様にとって、メンバー一人ひとりの意見やアイデアがチームの力となることはご周知の通りです。しかし、チーム内で一部のメンバーが発言をためらったり、重要な意見を言わずに「遠慮」しているように見えたりする状況に直面することはないでしょうか。このような「声なき声」が多い状態は、多様な視点や潜在的なリスクを見落とす可能性を高め、チームのインクルージョンを阻害する要因となり得ます。
特に多様なバックグラウンドを持つメンバーが集まるチームでは、経験や価値観の違いから生じる「どうせ言っても理解されないだろう」「自分の意見は場違いかもしれない」といった懸念が、「遠慮」として表れやすい傾向があります。このような状況を放置すれば、チーム全体のパフォーマンス低下だけでなく、メンバーのエンゲージメント低下や早期離職につながるリスクも考えられます。
本記事では、チーム内の「遠慮」をなくし、多様なメンバーが安心して発言できる心理的安全性をリーダーがどのように育むかについて、具体的なアプローチを解説します。実践的なステップを通じて、チームの潜在能力を最大限に引き出すためのヒントを提供いたします。
チームに「遠慮」が生まれる背景
チーム内でメンバーが発言をためらう背景には、いくつかの要因が考えられます。リーダーがこれらの背景を理解することは、適切な対策を講じるための第一歩となります。
- 過去のネガティブな経験: 以前、勇気を出して発言した際に否定的な反応を受けたり、意見を無視されたりした経験がある場合、「次も同じようになるのでは」という不安から発言を控えるようになります。
- チーム内の非言語的なサインや雰囲気: 特定の意見や発言スタイルだけが評価される、忙しそうなリーダーに声をかけにくい、会議で発言がかき消されてしまう、といった非言語的なサインやチーム全体の雰囲気が、「言っても無駄」あるいは「言うべきではない」という意識を醸成します。
- 自身の経験やバックグラウンドからくる懸念: 少数派と感じているメンバーは、「自分の当たり前は、他の人にとって当たり前ではない」という意識から、意見を共有することに二の足を踏むことがあります。これは無意識バイアスによって特定の意見が軽視される経験からくることもあります。
- 「空気を読む」文化や同調圧力: 周囲の意見に合わせることを重視する文化では、異なる意見や懸念を表明することが難しくなります。特に新しいアイデアや現状への疑問を呈することには勇気が要ります。
これらの要因は、チームの心理的安全性が低い状態を示唆しています。心理的安全性とは、「チーム内で自分の考えや気持ちを、誰に対してでも安心して発言できる状態」を指し、Googleの調査などで高いチームパフォーマンスに不可欠であることが示されています。
インクルーシブな心理的安全性の重要性
心理的安全性が高いチーム、特に多様なメンバーから成るチームでは、以下のようなメリットが期待できます。
- 多様な視点からのインサイト獲得: 異なる経験や知識を持つメンバーが遠慮なく意見交換することで、一つの問題に対して多角的な視点が得られ、より創造的で質の高い解決策が生まれやすくなります。
- 早期の課題発見とリスク回避: 懸念や問題点にいち早く気づいたメンバーがそれを率直に伝えられるため、大きなトラブルに発展する前に対応できます。
- メンバーのエンゲージメント向上: 自分の意見が尊重され、チームに貢献できていると感じることで、メンバーのモチベーションやチームへの愛着が高まります。
- 学習と成長の促進: 質問や失敗談を安心して共有できる環境は、メンバーの学びを深め、個々の成長を促進します。
インクルーシブな組織を目指す上で、この心理的安全性の構築は、多様性を単に「集める」だけでなく、それを「活かす」ために不可欠な基盤となります。
リーダーのための具体的な「遠慮」をなくすアプローチ(発話促進策)
では、リーダーはどのようにしてチームの「遠慮」を減らし、インクルーシブな心理的安全性を高めることができるのでしょうか。ここでは、明日から実践できる具体的なアプローチをいくつかご紹介します。
1. 傾聴と承認の徹底
- 相手の目を見て、最後まで聞く: 当たり前のようですが、意識が必要です。発言を遮らず、相槌や頷きで「聞いていますよ」という姿勢を示します。
- 発言内容だけでなく、「話してくれたこと」自体への感謝を伝える: たとえ期待していた内容と違っても、「〇〇さん、ご意見ありがとうございます」と、発言そのものを歓迎する姿勢を見せます。
- まずは受け止める: 反対意見や批判的な意見が出た場合でも、すぐに反論せず、「〇〇という視点ですね」「△△というご懸念ですね」のように、まずは相手の言葉を繰り返すか要約して、受け止めたことを伝えます。
2. 質問の工夫
- オープン質問を多用する: 「はい/いいえ」で答えられるクローズド質問ではなく、「〜についてどう思いますか?」「具体的にはどのような状況ですか?」といったオープン質問で、相手が自由に語れる余地を作ります。
- 特定のメンバーに丁寧に問いかける: 全員に漠然と意見を求めるのではなく、「〇〇さんは、以前この件について関心をお持ちだったと思いますが、何か気づいたことはありますか?」のように、過去の言動や経験に触れつつ特定のメンバーに丁寧に問いかけます。
- 多様な経験・バックグラウンドに紐づけた質問: 「この課題に対して、もし△△の経験をお持ちの観点から何かヒントはありますか?」「◇◇の状況で、もしどのようなことが懸念されますか?」のように、メンバーそれぞれの持つユニークな経験や視点を引き出すような質問をします。
3. 小さな発言機会の創出
- 会議のチェックイン/チェックアウト: 会議の開始時に簡単な近況報告や今日の意気込みを、終了時に簡単な感想や気づきを共有する時間を設けます。短い時間でも全員が話す機会を作ることで、心理的なハードルを下げます。
- 非公式な意見交換の場: 休憩時間やランチタイムなど、形式ばらない場で雑談を交えつつ、仕事の状況やアイデアについて気軽に話せる雰囲気を作ります。リモートワークであれば、短時間のバーチャルコーヒーブレイクなども有効です。
- 1on1の活用: 定期的な1on1ミーティングで、チームの状況や自身の業務についてどう感じているか、懸念点はないかなどを丁寧に聞く時間を作ります。公式な会議では言いにくいことも、1対1であれば話しやすい場合があります。
4. 「失敗しても大丈夫」な雰囲気作り
- リーダー自身の自己開示: リーダー自身が過去の失敗談や、現在抱えている課題、分からないことなどを率直に共有することで、「完璧でなくても大丈夫」というメッセージをチームに伝えます。
- 挑戦と失敗への評価: 新しいアイデアや試みに対し、結果だけでなく、そこに至るまでのプロセスや挑戦そのものを評価する姿勢を示します。失敗から学んだことを共有し、次に活かすサイクルを奨励します。
- 建設的なフィードバック: 発言内容や行動についてフィードバックを行う際は、人格や能力を否定するのではなく、具体的な行動に焦点を当て、改善に向けた期待を添えて伝えます。ネガティブなフィードバックの後には、必ずポジティブな側面や貢献にも言及します。
5. 非言語コミュニケーションへの配慮
- 会議中の態度: 発言者の目を見て聞く、相槌を打つ、関心を示す表情をするなど、非言語的なサインで歓迎の意を示します。特定のメンバーの発言中に他の作業をしないように意識します。
- オンライン環境での配慮: オンライン会議では、発言したいタイミングが見えにくいことがあります。積極的に発言者を指名したり、「何か補足や質問はありますか?」と丁寧に問いかけたりするなどの配慮が必要です。また、ミュートを解除しやすい雰囲気作りも大切です。
継続的な取り組みとしての心理的安全性
心理的安全性の高いチーム文化は、一朝一夕に築けるものではありません。一度築いたとしても、新しいメンバーの加入やチームの状況変化に応じて、常に意識し、育み続ける必要があります。
リーダーは、定期的にチームメンバーからのフィードバックを収集することをお勧めします。「このチームで安心して発言できていますか?」「どんな時に発言しにくいと感じますか?」といった問いかけを通じて、現状を把握し、改善につなげます。また、リーダー自身の無意識バイアスが、特定のメンバーの発言を軽視したり、発言しにくい雰囲気を作ったりしていないか、定期的に自身の言動を省みることも重要です。
まとめ
チーム内の「遠慮」をなくし、多様なメンバーが安心して発言できる心理的安全性を築くことは、チームのインクルージョンを深め、パフォーマンスを向上させるために不可欠です。これは単なる雰囲気の問題ではなく、リーダーの具体的な行動と継続的な働きかけによって育まれる文化です。
本記事で紹介した傾聴、質問の工夫、小さな発言機会の創出、「失敗しても大丈夫」な雰囲気作り、非言語コミュニケーションへの配慮といった実践的なアプローチを試してみてください。これらの取り組みを通じて、多様なメンバーの「声なき声」に耳を傾け、一人ひとりがチームに貢献できている実感を持てる、真にインクルーシブなチームを創り上げることが期待できます。